管理職に求められるスキルには「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つがあります。
テクニカルスキルとはマネジメント能力や情報収集能力などの業務を遂行するための能力であり、ヒューマンスキルとはリーダーシップやコミュニケーション能力などの対人関係能力です。
また、コンセプチュアルスキルとは経営者に求められるスキルでロジカルシンキングや問題解決力などの概念化能力のことを指します。
本記事の執筆者
「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」は役職により求められる割合が異なります。
そのため当記事では、管理職にはどのような分類や役割があるのか、役割毎に必要なスキルとその能力の伸ばし方について解説します。
管理職の分類
管理職とは「決裁権を持つ役職」のことであり、組織の売り上げ目標や部下をマネジメントする立場にあります。
一般的には部長や課長、プロジェクトマネージャー/リーダーなども管理職と呼ばれています。
ここでは管理職に求められるスキルを説明するために、管理職をマネジメントする立場にある経営職についても解説します。
トップマネジメント(経営者層)とは
トップマネジメントとは、社長や役員が経営方針の決定や経営計画を策定し、組織を運営することです。
もともとは”管理”という活動を指す言葉ですが、日本では最高経営者層や最高管理層という場合もあります。
ミドルマネジメント(部長、課長層)とは
ミドルマネジメントとは主に部長職や課長職などの中間管理職を指し、部門の運営を任されています。
トップマネジメント同様、部門の運営という活動およびその活動を行う役職をミドルマネジメントと呼んでいます。
経営に関する責任の有無がトップマネジメントと異なります。
ロワーマネジメント(リーダー層)とは
ロワーマネジメントとは、監督者層やリーダー層とも呼ばれており現場のメンバーを直接指導する立場にあります。
ミドルマネジメントが掲げた事業・組織目標を達成するために活動します。
管理職の役割と責任
管理職は「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」に分類できましたが、それぞれどのような役割や責任が求められるのでしょうか。
ここでは役割と責任について解説します。
- 責任:立場上当然負わなければならない任務や義務
- 責任を取る:過失をおかした際に関係者が納得する形で事態を納めること
トップマネジメントの役割と責任
役割
トップマネジメントは事業活動や組織運営について大きな影響力を持つ外部関係者との連携や交渉を行う役割があります。組織が進むべき方向性の決定や他社との良好な関係を築く大事な役割です。
責任:
トップマネジメントには説明責任、方針および目標の確立、品質方針の確立と維持などが求められます。これらを達成できなかった場合、辞職や降格(辞任)という形で責任を取ります。
ミドルマネジメントの役割と責任
役割
ミドルマネジメントはトップマネジメントが掲げた企業理念を正確に理解・把握し、目標を達成するための具体的な計画を立案します。
また、部下の能力や得手不得手を把握して実行力のある組織を作り上げ、その結果として目標を達成させる役割があります。
責任
トップマネジメントが決定した事業方針をもとに組織の方針を決めます。また、部下の育成・監督および組織としてのルールを浸透させることが求められます。
これらを達成できない場合は出向、降格、減給などで責任を取ることになります。
ロワーマネジメントの役割と責任
役割
ロワーマネジメントは監督者やリーダーとして一般社員を統制し指揮する役割があります。
ミドルマネジメントが決定した組織の計画を現場に反映させていきます。
責任
ロワーマネジメントには現場を統括し、プロジェクトを遂行する義務があります。また、適切なタイミングで上司やクライアントへの報告も求められます。
これらを怠り組織やプロジェクトに著しい損害を与えた場合には、評価が悪化しボーナスなどに響く場合があります。
※ミドルマネジメントの監督責任も問われるため、即クビになるといったことは一般的にはありません。
管理職に必要なスキル
管理職に求められるスキルは大きく分けて「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つがあります。
これはアメリカの経済学者ロバート・L・カッツ氏が1950年代に提唱した「カッツ・モデル」に基づいています。
カッツ・モデルでは管理職の分類ごとに求められるスキルの割合を示しており、トップマネジメントにいくにつれてコンセプチュアルスキルが占める割合が大きくなります。
テクニカルスキル(業務遂行能力)
テクニカルスキルは「業務遂行能力」のことであり、日々の業務を遂行する上で必要な知識や技術を指します。
ロワーマネジメントである監督者やリーダーは、一般社員を統率しプロジェクトを遂行していく立場であるため、このスキルの比重が大きくなります。
- マネジメント能力
- 情報収集能力
- 商品知識
- 市場理解
- 分析力
- 資料作成能力
マネジメント能力
スケジュールの立案やリスク分析などプロジェクトを管理する上で必要な能力です。
マネジメント能力を漏れなく重複なく学ぶためにはPMBOK(ピンボック)の活用が最適です。
情報収集能力
あふれかえった情報の中から必要な情報を精査し、まとめる能力を情報収集能力と言います。
インターネット上には有益な情報も多いですが、間違った情報も多く存在します。その中から信憑性の高い情報を見極める力がないと誤った結果を出してしまう恐れがあります。
書籍であっても古い情報と新しい情報の分別や、膨大な文章の中から自分に必要なトピックだけを抽出する能力が求められます。
商品知識
自社が取り扱っている製品に関する知識なしに、顧客に物は売れません。
システム構築であっても、プログラム言語の特性や顧客業務を把握しておかないと適切な設計やレビュー、テストの実施が困難になってしまいます。
市場理解
いくら商品の知識があっても、市場がその商品を求めていなければ売り上げにはつながりません。
需要と供給を正しく理解し、世間が求めている商品を正しく把握することが大切です。
分析力
問題が発生した場合、なぜその問題が発生しているかを突き止めることができなければ一時は問題が解決したように見えても後から再発してしまうリスクが潜んでいます。
正しく情報を分析し、原因を特定できる力が求められれます。
資料作成能力
素晴らしい技術力があっても関係者に正しく伝えないと組織としての成長はありません。
言葉だけだとその場限りとなり、その後入社してくる社員や開発に関係していない顧客には伝わりません。
情報を過不足なく正確に資料として伝える能力が必要です。
ヒューマンスキル(対人関係能力)
ヒューマンスキルは「対人関係能力」のことであり、プロジェクトメンバーや顧客との良好な関係を築くために必要なスキルです。
また、マネージャーやリーダーとして組織へ働きかける能力もヒューマンスキルに含まれます。
- リーダーシップ
- コミュニケーション
- ファシリテーション
- コーチング
- プレゼンテーション
- 交渉力と調整力
リーダーシップ
マネージャーがかかげた目標に向かってみんなを先導する力がリーダーシップです。
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」で話題となったピーター・ドラッガーは変化の時代を生き残るために必要なリーダー像として次の4つを提唱しています。
- 捨てる勇気を持つ
- 改善を続ける
- 成功を常に追求する
- 「新しい価値の創造」を先導する
※④は①②③の結果としてついてくるもの
コミュニケーション
相手との意思疎通をスムーズに行うための能力です。
単に話が分かりやすいだけではなく、身振り手振りや表情を駆使してどれだけ相手に伝わるかが重要です。
伝えるではなく伝わるが大切です。
「バナナの魅力を100文字で伝えてください:柿内尚文 著」は著書の中にも伝わるための技術が利用されており非常に実用的でした。
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ファシリテーション
会議や打ち合わせ、研修においてメンバーの認識にズレが発生していないか確認したり、議論が本題から逸れてきたら軌道修正をするなど、集団での議論の効果を最大限に高めるための技法です。
司会がファシリテーションを行うことが多いですが、別途ファシリテーター(ファシリテーションをする人)を配置する場合もあります。
コーチング
部下やプロジェクトメンバーに対して、能力や行動を引き出すための技法。ティーチングと混同しないように注意が必要です。
ティーチング | 教える側が経験や知識に基づき、教わる側に答えを提供する方法。 指示・命令型でのコミュニケーションが発生する場面が多い。 |
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コーチング | 「答えは相手の中にある」を原則として、情報提供や質問を通して相手に“納得感”を与える技法。 |
プレゼンテーション
視覚と聴覚でわかりやすく伝えるための技法です。
特に視覚情報に重点を置き、強調したい内容を太文字にしたり、提示の順番を工夫することで理解を促します。
プレゼンテーションは、伝えるためではなく行動してもらうことを目的としているところがポイントです。
交渉力と調整力
交渉力(ネゴシエーション)とは立場や利害が異なる人に対して双方が納得できる「落としどころ」を設定する能力です。
交渉に使える心理学など様々な技法があり、交渉力を高めることで自分に有利な状況を作り出すことができます。
また調整力とは「目的のために、利害の対立する人たちをまとめあげるスキル」です。
ビジネスは個人ではなくチームで実施しますので、多くの人を巻き込んで調整しつつ、自組織に有利な状況を作り出すために交渉できる姿を目指しましょう。
コンセプチュアルスキル(概念化能力)
コンセプチュアルスキルは「概念化能力」のことであり、多くの情報を分析し整理することで課題の本質を見極めるスキルです。
下記のロジカルシンキングやラテラルシンキングのほかに柔軟性、知的好奇心、探求心、応用力、洞察力、先見性なども重要な要素となります。
- ロジカルシンキング
- ラテラルシンキング
- クリティカルシンキング
- 多面的視野
- 俯瞰力
ロジカルシンキング
論理的思考力のことであり、物事を論理的に整理することができる能力です。
事象を体系的に整理して、矛盾なく論理的に分析していくので、複数の要素が絡み合った問題であっても解決することができるようになります。
ラテラルシンキング
水平思考という思考法であり、常識や固定概念を取り払って物事を多角的にとらえる能力です。
この分野に〇〇な傾向があるから、類似しているこっちの分野にも適用できるのでは?といった仮説を立てることができるようになります。
クリティカルシンキング
批判的思考という思考法であり、前提を疑うことで思考の偏りを見つけ正しい結論を導き出す能力です。
過去のやり方でヒット商品を出したからといって、同じ手法でまたヒット商品を生み出せるわけではありません。
過去と現在では市場の状況が変わっているかもしれません。前例を疑って考えることで思考の偏りを排除し改善点を特定することができるスキルです。
多面的視野
自組織、競合他社、消費者など様々な立場からの視点で物事を考察することができる能力です。
一方向からの視点で物事を判断すると、重要な要素を見落とすことになります。
クリティカルシンキングやラテラルシンキングと合わせて用いることで、リスクを予測して回避したり、斬新なアイディアの創出につながります。
俯瞰力
自分の視点と第三者視点とを合わせて物事の全体像を把握することができる能力です。
第三者視点のみだと俯瞰ではなく「客観」であり観察力のことを指します。
俯瞰力を高めることで、視野が広くなり正確な判断を下したり、適切な段取りを考えることができるようになります。
スキルの伸ばし方
「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」を伸ばす方法は読書や資格取得、講座の受講など様々です。
それぞれのメリットやデメリットを解説します。
- 読書
- 資格取得
- YouTube
- オンライン講座
- 実践
読書
知識の習得に読書は欠かせません。
ネット上の情報はプロの編集者によるチェック(校閲)が入っていませんが、書籍は校閲が入っているため信頼性が非常に高い媒体です。
また著者がどのような論理展開をしているのか、読み物としてどのような見せ方をしているのかを意識しながら読むことでロジカルシンキングや資料作成能力などが向上します。
資格取得
学んだ知識を「問題」を通してアウトプットすることで、読む / 見る / 聴く と比較して知識を利用できる状態になります。
代表的な資格を紹介します。
- テクニカルスキルに関する資格:基本情報技術者や簿記 など
- ヒューマンスキルに関する資格:話し方・伝え方スペシャリスト資格、心理交渉術スペシャリスト資格
- コンセプチュアルスキルに関する資格:中小企業診断士
YouTube
一部のテクニカルスキルとヒューマンスキルの知識についてはYouTubeでも十分に学ぶことができます。
オリエンタルラジオの中田敦彦さんが運営しているYouTube大学は、要約するスキルやプレゼンテーション力の勉強になります。
しかし、コンセプチュアルスキルやより実践的で体系的な知識は、やはり有料コンテンツが勝っています。
オンライン講座
個人として公開できるYouTubeと違って、オンライン講座(有料)は企業としてコンテンツが用意されています。
”事業”として準備されているものですので、質や量、より実践的な内容、ベテラン講師の起用など充実しています。
有名なオンライン講座として「Udemy」や「【コミュトレ】」があります。
自分の強みやスキルをグラフで可視化する無料診断サービスも用意されていますので、興味のある方は確かめてみてください(下記ボタンでコミュトレの公式ページに移動します)。
実践
OJT(オージェーティ:実際の職場で上司や先輩から知識や技術を学ぶこと)を通して現場でスキルを得ることでより実践的な力となります。
また、読書、YouTube、オンライン講座は知識の”インプット”作業です。
知っていると出来るは異なります。
実際の現場で“アウトプット”して初めて”スキル”になるのです。
まとめ
マネジメントに関わる役職は「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」に分けることができました。
- トップマネジメント : 社長や役員を指し、組織を運営する
- ミドルマネジメント : 中間管理職を指し、部門の運営を任されている
- ロワーマネジメント : リーダーや監督者を指し、現場を指揮する
トップマネジメントの役割は外部関係者との連携や交渉であり、ミドルマネジメントの役割は企業理念を現場に落とし込み部下を管理することでした。また、ロワーマネジメントの役割は現場の統率・指揮です。
必要なスキルには「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」があり、カッツ・モデルに基づき「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」で求められるスキルの割合が異なります。
トップマネジメントほどコンセプチュアルスキルの比重が大きくなります。
スキルを伸ばす方法としては読書やオンライン講座があります。
- 読書
- 資格取得
- YouTube
- オンライン講座
- 実践
では、今回はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。