スコープマネジメントと聞くとプロジェクトの範囲と成果物を決めてしまえばそれで終わりという印象を持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、決して軽視して良いものではありません。
当記事では「スコープマネジメントとは」「スコープマネジメントの重要性」についてわかりやすく解説します。
本記事の執筆者
PMBOKの勉強を進めていくと「10の知識エリア」が登場します。この「10の知識エリア」のうち「スコープマネジメント」について解説します。
スコープマネジメント(スコープ管理)と聞くと、「作業範囲や成果物を定義するだけでしょ」と考える人もいるかと思います。
しかし、スコープマネジメントをおろそかにするとプロジェクトは確実に失敗します。
スコープマネジメントとはそれほど重要な役割を持っています。
「スコープマネジメント」をおろそかにした場合に起こりうる悲劇を反面教師に「スコープマネジメント」の重要性を理解いただけるようになりますので、ぜひ最後までお付き合いください。
スコープマネジメントとは
はじめに
PMBOK Guideは大きく「フェーズ」「5つのプロセス群」「10の知識エリア」で構成されています。
「スコープマネジメント」とは「10の知識エリア」の1つであり、プロジェクトの作業範囲や成果物を定義する領域です。
スコープマネジメント
プロジェクトは顧客の要望から発生します。
顧客の要望を満たすための成果物を作成する段取りとしては、要望から出てきた要求や要件をもとに仕様を決めて設計書を作成し成果物を作り上げていく流れになります。
スコープマネジメントとは、どのような仕様でどのような設計書を作成し最終成果物は何であるかをステークホルダー全員の齟齬が発生しないように管理していくことです。
スコープマネジメントをおろそかにすると
スコープマネジメントをおろそかにした場合に生じる不都合を次の3点を例に紹介します。
- 顧客の要望の本質を捉えきれていない
- スコープが曖昧でステークホルダー間で認識にばらつきがある
- 顧客とスコープを握れていない
①顧客の要望の本質をとらえきれていない
工事現場で利用する機械や設備、材料などを管理する設備管理システムの構築を依頼された場合を例に紹介します。
みなさんはどのようなシステムをイメージしますか?
設備管理システムと聞くと、現場で測定したデータを事務所に戻ってディスクトップPC上のシステムに入力していくイメージを持たれた方が多いと思います。
特定の担当者に対してヒアリングすると上記のイメージであっているよと返答があったとします。
しかし、顧客の本当の要望は「現場で測定したらその場でシステムに入力すること」「事務所に戻ってからの入力も可能」だとしたらどうなるでしょうか。
ディスクトップPCではなくタブレットに特化した見た目や操作性を考慮する必要があったということになります。
反応速度も気にしないといけません。
そもそもタブレットの調達費用は誰が出すかの合意もできていません。
調達費用は顧客が持ったとしても、後手に回ったことでスケジュールは到底間に合うものではないでしょう。
このように顧客の要望をしっかりと収集して計画に落とし込み、合意をとっておかないとプロジェクト後半で思わぬ変更が発生する場合があります。
上記は極端な例を挙げましたが、実際に顧客の要望を正確につかめておらず変更が発生するプロジェクトは多いものです。
②スコープが曖昧でステークホルダー間で認識にバラつきがある
何をどのような工程で作っていくのかが不明確なまま作業を続けていくと、担当者毎に思い思いの完成像に向かい、最終的には顧客が求めていたものとは程遠い成果物が作り出されていきます。
言葉で説明するより「オレゴン大学の実験」という画像を見ていただければご理解いただけるはずです。
出展:Alexander C. 教授著、宮本雅明訳「オレゴン大学の実験」鹿島出版会(原題:The Oregon Experiment)
ここで重要なのが、顧客ですら必要なものをうまく説明できていないということです。
プロマネは顧客が求めるものを文章や図で可視化して、齟齬のない成果物を予め合意しておくことが重要になります。
③顧客とスコープを握れていない
プロジェクトメンバーには初期教育やWBSなどを通して成果物と作業範囲をしっかりと共有したにも関わらず、一番重要な顧客に対してどのような作業を実施してどのような成果物を納める予定であるかを説明していない場合にも問題が発生します。
顧客は高い費用を払ってプロジェクトを発注しています。
- このくらい言わなくても常識的に〇〇機能は用意してくれるだろう。
- 受注した方がデザイナーを雇ってすごい見た目にしてくれるだろう。
このように発注元には自分の理想とするイメージがあり、それを受注側に十分に伝えて切れていない場合がほとんどです。
このような大きな理想を是正せずに放置しておくと、プロジェクト終盤に「この機能が足りない」「見た目が気に食わないので設計からやり直せ」などクレームを受けることになります。
大口の取引先の場合、プロマネが強気に出れずに要件を引き受けてしまう場合もあります。
一度要望をのむと顧客心理としてあれも追加、これも追加と次々と追加要望が発生する事態に陥っていきます。
この状態をスコープ・クリークと言います。
プロマネはこのスコープ・クリークを防ぐためにも事前に作業範囲や成果物について顧客に丁寧に説明しておく必要があるのです。
スコープマネジメントのプロセス
「スコープマネジメント」と「5つのプロセス群」との関係性について解説します。
5つのプロセス群との対応
スコープマネジメントは「5つのプロセス群」のうち「計画プロセス群」と「監視コントロールプロセス群」に関係があります。
スコープマネジメントと各種プロセス群に含まれるプロセスの関係は下表の通りです。
プロセス群 | プロセス |
計画プロセス群 | ①スコープ・マネジメントの計画プロセス |
②要求事項の収集プロセス | |
③スコープの定義プロセス | |
④WBSの作成プロセス | |
監視コントロールプロセス群 | ⑤スコープの妥当性確認プロセス |
⑥スコープのコントロールプロセス |
6つのプロセス
各種プロセスの役割について説明します。
①スコープマネジメントの計画プロセス
プロジェクト憲章をもとにして、②~⑥までのプロセスをどのように進めるかを定義します。
②要求事項の収集プロセス
プロジェクト憲章をもとに作業範囲や成果物を定義するが、ほとんどの場合はそれだけでは足りません。
そのため、あらゆるステークホルダーにヒアリングした結果を一覧化します。
この一覧表を要求事項文書と呼びます。
③スコープの定義プロセス
要求事項文書をもとにして、各種フェーズ毎の成果物や成果物の受け入れ基準を定義する。
また、作業を進める上での前提条件や制約事項をまとめる。
これをプロジェクトスコープ記述書と呼びます。
やる作業だけでなく、やらない作業も明確にすること
④WBSの作成プロセス
プロジェクトスコープ記述書をもとに、WBS(Work Breakdown Structure)を作成します。
WBSとは作業工程をタスク単位に分解し構造化した一覧表のことです。
※下図はWBSとガントチャートを用いたスケジュール表の例。
大分類からタスクまでをWBS、スケジュール部分をガントチャートと呼ぶ。管理しやすいように適宜担当者や予定、実績を併記して管理する。
>30日間無料でガントチャートを使ってみる
※上記リンクからスタンダードプランの無料トライアルを登録いただければガントチャートが利用できます。
⑤スコープの妥当性確認プロセス
テストを実施し品質基準を満たした成果物に対して、クライアントの受け入れテストにより要求に対する成果物の妥当性を確認する。
⑥スコープのコントロールプロセス
プロジェクトの作業や成果物に対して当初計画に対する予定と実績の差異を監視し、必要に応じて計画の変更を検討する。
まとめ
今回は、「10の知識エリア」の一つであるスコープマネジメントについて解説しました。
◆スコープマネジメントとは「10の知識エリア」の1つであり、プロジェクトの作業範囲および成果物を定義する領域である。
◆スコープマネジメントをおろそかにするとプロジェクトは失敗する。
◆スコープマネジメントに関するプロセスは6つある。
では、今回はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。