ステークホルダーとはプロジェクトに関係するすべての人のことを指します。
決裁者やキーマンなどおさえておくべき人物を特定し、その人たちとの関与度を適切にコントロールすることでプロジェクトの成功確率が飛躍的に向上します。
そのため当記事では「ステークホルダーの関与度を可視化する」方法と「ステークホルダーの関与度の調整」についてわかりやすく解説します。
本記事の執筆者
PMBOK(ピンボック:プロジェクト管理の教科書にあたるフレームワーク)の勉強を進めていくと「10の知識エリア」が登場します。
この「10の知識エリア」の1つが「ステークホルダーマネジメント」であり、ステークホルダーの管理はそれほど重要度が高い領域です。
ステークホルダーマネジメントとは
はじめに
PMBOK Guideは大きく「フェーズ」「5つのプロセス群」「10の知識エリア」で構成されています。
「ステークホルダーマネジメント」とは「10の知識エリア」の1つであり、プロジェクト関係者の管理に関する領域です。
ステークホルダーマネジメント
プロジェクトは1人では実施できません。
発注者、受注者、プロジェクトメンバー、営業、経理担当、事務処理担当など様々な人がプロジェクトには関わってきます。
このすべての関係者のことをステークホルダと言います。
このステークホルダーを特定し、それぞれの関わり具合(関与度)を分析し、関与度を上げたり下げたり調整してプロジェクトへの貢献値を最大限に引き出すように働きかけることをステークホルダーマネジメントと言います。
ステークホルダーマネジメントの重要性
顧客の担当者と頻繁に会話し、1歩ずつ仕様を決めていき、実装・テストまで進めていた際に顧客担当者の上司の鶴の一声で仕様が覆ったという経験はないでしょうか。
これは顧客担当者は仕様調整の窓口ではあるが、決定権を持つ人物ではなかったということです。
仕様の決定権を持つ人物が顧客の上司であった場合、仕様書レビュー依頼メールのCc:に顧客の上司も入れておくことで手戻りを最小限にできます。
少なくとも顧客の上司に情報を渡しているので一方的に「やり直し」とはならずに仕様変更の交渉がしやすくなります。
もう一つ私の体験例を述べます。
RFP(提案依頼書)を受け取り、しっかりとシステムの分析を行い汗水流して提案書を書き上げました。
依頼元のリーダと念入りな打ち合わせを行い、最終的にはおそらく御社に発注することになるという情報を流してもらい安心していたところ、驚きの結果が入ってきました。
別の会社に依頼することが決まってしまったのです。
営業経由で理由を確認したところ、リーダーの右腕となる人物の存在があり、その人物は別の会社とよくやり取りしていました。
最終的にリーダーは右腕である人物の意見を尊重し、別の会社に発注を決めたそうです。
このように、どんなに頑張ったとしても押さえておくべき人物を間違ってしまうと結果が伴いません。
しっかりと誰がプロジェクトに関わっており、誰を押さえておくべきか見極めて、その重要人物との関与度を上げておく必要があります。
ステークホルダー関与度の可視化
ステークホルダーがプロジェクトにどれくらい関わろうとしているのかという意欲を関与度と言います。
現状の関与度と望ましい関与度を可視化することにより、各ステークホルダーへのアプローチ方法を決めることができます。
現状と望ましい関与度および、関与度を向上させるための方法を記した資料をステークホルダーエンゲージメント計画書と呼びます。
関与度を可視化するためにはステークホルダー関与度評価マトリクスを用います。
関与度には5段階あり、高い順に指導、支援型、中立、抵抗、不認識です。
- 指導:プロジェクトを指揮する
- 支援型:プロジェクトの進行を支持する
- 中立:プロジェクトに対して抵抗も支持もしない
- 抵抗:プロジェクトを邪魔する
- 不認識:プロジェクトの存在を認識していない
ステークホルダー関与度評価マトリクスでは「現在の関与度」と「望ましい関与度」を明記します。
自社事業部長は現在「中立」の立場をとっているが、プロジェクトの進捗が思わしくないため「指導」して欲しいといった具合に用います。
ステークホルダー関与度の調整
ステークホルダー関与度評価マトリクスを作成したら、あとは望ましい関与度にまでステークホルダーの関与度を引き上げるよう活動します。
中立の立場にあるステークホルダーを支援型に引き上げるために、相談事項があれば積極的に対象者にメールや電話をして関心を持たせる方法があります。
また支援型を指導に引き上げるためには、役割と権限を与えて自主的な行動を促すようにします。
このように、関与度を可視化し、望ましい関与度まで引き上げることでプロジェクトが円滑に回るようになります。
ステークホルダーマネジメントのプロセス
ステークホルダーを管理するためには、PMBOKが定義している「5つのプロセス群」との関連をおさえておくことも重要です。
5つのプロセス群との対応
ステークホルダーマネジメントは「5つのプロセス群」のうち「立ち上げプロセス群」「計画プロセス群」「実行プロセス群」と「監視コントロールプロセス群」に関係があります。
これからも分かるようにステークホルダーはプロジェクトの立ち上げ時から終盤までしっかりと管理していく必要があります。
ステークホルダーマネジメントと各種プロセス群に含まれるプロセスの関係は下表の通りです。
プロセス群 | プロセス |
立ち上げプロセス群 | ①ステークホルダーの特定プロセス |
計画プロセス群 | ②ステークホルダー・エンゲージメントの計画プロセス |
実行プロセス群 | ③ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメントプロセス |
監視コントロールプロセス群 | ④ステークホルダー・エンゲージメントの監視プロセス |
4つのプロセス
各種プロセスの役割について説明します。
①ステークホルダーの特定プロセス
プロジェクトにはどのようなステークホルダーがいるのか、各ステークホルダーとは現時点でどの程度の関与度なのかを特定する。
②ステークホルダー・エンゲージメントの計画プロセス
現時点のステークホルダーとの関与度を、求められる関与度まで引き上げるためのコミュニケーションレベルを設定する。
③ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメントプロセス
ステークホルダー・エンゲージメント計画書に基づいて、ステークホルダーの関与度を求めらえる関与度まで引き上げるために各ステークホルダーに働きかける。
ステークホルダー・エンゲージメント計画書とは、効果のある関与を助長する戦略と行動を記述した文書のこと。
④ステークホルダー・エンゲージメントの監視プロセス
ステークホルダーの関与度について計画と実績を分析し、差異を解消するための対処法を検討する。
まとめ
今回は「ステークホルダーの関与度を可視化する」方法と「ステークホルダーの関与度の調整」について解説しました。
ステークホルダーの管理はPMBOKの「10の知識エリア」でも扱われるほど重要な領域です。
重要人物を見極めて、関与度を高めておかないと想定外のどんでん返しを受ける可能性があります。
プロジェクトを安定的に進捗させるためにはステークホルダーを可視化し、それぞれの関与度を適切に管理することが必要です。
ステークホルダー毎の現在の関与度と求める関与度を表にしたものを「ステークホルダー関与度評価マトリクス」と呼びます。
ステークホルダー関与度評価マトリクスに従い、適切なアプローチを経て求めるべき関与度まで引き上げてください。
ステークホルダーを管理することがプロジェクト成功への第一歩です。
では、今回はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。